『ヒノキスギノキ時々ヤルキ』3

坂道を一歩ずつ学校へと向かう。
いつもならば憂鬱、と言うかそれどころですらない必死な登校の一コマだけど今日の僕は一味違った。
坂道を登り切ると目の前には我が母校。相変わらず人の気配は殆ど無い。まぁ、自由登校期間だから当然なのだけど。
そんな事はさておいて正門を通って昇降口、階段といつも通りのルートを教室まで歩く。
校内に入ったら実は生徒が一杯。と言うサプライズが有るわけもなく、しんとした校舎の中に僕の足音だけが響いていく。
普通なら、ここでおもむろに教室のドアを開けたところで誰も居ないはずだ。


だけど僕だけは、いや、”僕ら”だけは知っている。人気の無い校舎だけど、此処には毎日必ず一人と一人と一人が居る事を。


そうやって僕は、教室のドアを開けた。
ゆっくりと中に入って振り返るのは後方窓際、そこに四つの机を向かい合わせて三人分の指定席が用意されている。
そこに座ってるのは、見慣れたイチヨシの顔と――
「――広辞苑
いや違う広辞苑は人の顔じゃないしそもそもこんなに急激に膨らんだりってもしかしてコレ飛来中?
「おぅわっ!?」
仰け反りと捻りの複合技にしゃがみを加えて、強度と重量に優れた投擲兵器をどうにか回避する僕。
直後にどすっ、と壁から良い感じに重い音が響き、直撃したときに迎えていただろう僕の未来を教えてくれた。
「いったい何が」
と呟きかけて、更なる異音に気づく。敢えて表現すると机の上を力強く誰かが駆け抜けてくる様な音だ。
「え”」
改めて振り向いた時にはもう足音が停まっていて、その代わりに翻るスカートとライムグリーンの三角形が見える。
その直後には肩から踏み倒される形で既にマウントポジションを奪われていた。
イッタイナニガドウナッテマスカ。
そんな疑問を口にする間もなく、見上げる僕の視界の中で彼女の拳が既に顔の横まで振り上げられちゃってますよ。


――うん、これは死んだね?