更に書いてる

梳野のPCには知る人ぞ知る「Japanist」と言う日本語入力ソフトが入っているのですが、

Ver.が極めて古い事もあって漢字変換の語彙があまりにショボい上に学習機能もトンチンカンだったり。

と言うわけでATOKの体験版を試してみたのですが、これはこれでしっくり来なかったり。

Japanistの最新版の体験版が有れば良いのですけど、どうやらそう都合良く世の中が回ってる訳でもなさそうで。

さて、耐えるか挑むか……悩みますなぁ。





── 1stRide:A ray ──(2nd)



 引き寄せて爪の空振りを誘い、がら空きの肩に突きたてる。

急前進して腹部に蹴りを入れて怯んだ所を横一閃。

振り抜いたセーリィを下から大回しして後ろから来ていた奴を下から斬り上げ。

一匹の幻獣が遠くから吐いてきた火炎弾を切り払い、返す刀ならぬ砲でその一匹を焼き尽くす。

そのまま砲撃を振り回して遠巻きに囲む連中を薙ぎ払おうとするが、

射程範囲に国防軍機が居たので砲撃では無く射撃で個別に撃ち落とす。

 染みついていた恐怖を払ってしまえば、セーリィを手にした事で得られた力の大きさがより実感出来た。

 三種の攻撃はどれも強力で紙細工を叩き潰す様に幻獣を撃墜出来るし、

彼女によって強化された感覚は幻獣達の動きに追いつくどころか完全に読み切って先すら見えると言うほどだ。

 長身の大人程から乗用車級の大きさ程まで様々な種類の幻獣が立ちはだかるが、

少年と幻獣達を拮抗させているのは幻獣側が唯一勝る数の優位によるものであり、それさえも徐々に失われつつある。

 そんな圧倒的に一方的な戦いの中、少年の拡大された感覚は周囲の空気が徐々に変わっていくのを感じていた。

飛び立った時はあんなにも重くまとわりついていた筈の空気が、次第に軽く輝きを帯び始めている。

 それは物理的な変化──例えば湿度や温度など──による印象の違いではない。

『……分かりますか? 貴方の戦いを見ている人達が、貴方を応援しているのが』

 少年には元来備わっていなかった感覚野が、人々の心情を漫然とでは有るが感じ取っているのだ。

『是だけの綺麗な感情が集まるならば、私の力も一段高いレベルで引き出せそうです。試してみますか?』

 少年は僅かに首を横に振る。彼はゲームの類では必ず切り札を温存するタイプだ。

『分かりました、使うか否かは貴方の自由です。この様子では確かに使うまでも無いでしょうが──』

 その言葉に異を唱える様に、漆黒の夜空の中でも其と分かる程黒い歪みが生まれる。

歪みから漏れだす様にして異形が姿を表すが、その体躯は今まで駆逐してきた幻獣と明らかに格別である事を主張していた。

 体長は一戸建て、それも三階建ての住宅程か。体表は今までの幻獣が爬虫類のそれを連想させたのに対し、

いま現れた幻獣の体表には硬質の鈍い輝きを見せる鱗が隙間無く生えている。

 その全体が露になり、少年はいまさらにその姿を持つ者が何と呼ばれていたかを思い出した。

人が「竜」と呼んだ幻想と眼前の異形の姿が一致する。

 少年は半ば無意識に、右手のセーリィを握り直してた。



 僅かな睨み合いの後、少年が竜の口元から光が漏れていると気付く。

瞬間、静止していた少年は音速の壁を破るほどの急加速で上昇する。

 少年が水蒸気の傘を突き破った直後、先程まで彼が漂っていた場所を光すら放つ熱衝撃波が突き抜ける。

セーリィの守護障壁が有ったとしても、直撃は危険だと一目で分かる火力だった。

 それを見た少年は反射にも近い決断で竜に接近する。

 音速を超えた突進に、剣の形を取っていたセーリィの切っ先は細く白いヴェイパートレイルを描く。

肉薄しその脇を潜り、叩きつけると言うよりは撫でつける様にしてすれ違う。

だがその手に返ってくる物が反発する感触が、何よりもこの竜が一筋縄では行かないと語っていた。

 そもそも他の幻獣はセーリィの作る抹消空間に抵抗出来ず、その意味で少年の手はまだ「斬った」感触を知らない。

そして今も到底「斬った」と言える様な手応えでは無かった。

 振り向けば竜も少年に向き直り、どう攻めるかと言わんばかりに彼を睨んでいる。

 少年の意識がセーリィに呼びかけた。



了解(ラジャー)仮想門(ロジカルゲート)開放準備、感覚強化方式を感応(シンクロ)から強制同調(オーバーライト)に変更。

 圧縮突撃仕様(モード・アクセルランページ)、開始します』



 セーリィの宣言と同時、彼女の体が赤い仄かな光を纏い其を持つ少年は世界を置き去りにする。

先程までと同じ感覚で動いているにも拘らず、竜の動きが空気の流れが時間の経過が余りにも遅い。

 そして少年は右手に熱の様なものを感じていた。

厳密に言えばそれは熱では無くセーリィの扱える出力である。

あれ程の力を誇ったセーリィの攻撃が、まだその上を発揮出来ると言う事だ。

 一度しっかりとセーリィを握り直し、少年が再び突撃する。

竜の反応を上回るその突撃速度はもはや音速の数倍にも達していた。

 大気による衝撃波に耐えた竜が、自分の頭部に在る影に気付いた時には少年がセーリィを叩きつけている。

少年は弾き飛ばされた頭部を追い抜いて、逆方向に追撃。

振るわれるだけで音速を超える斬撃を二発、それも一撃目の衝撃を全て体内に押し込まれる様な追撃を受けた竜は

しかしまだ戦意を失わずその戦意に追いつくだけの戦力は残っている様だった。

 だが竜が振るった、否、竜に振るわせた爪は少年の障壁にすら届かずに空を裂く。

次の瞬間に始まったのは連続する音速超過よって絶え間なく鳴り響く轟音と、

瞬く間に竜を覆い尽くしていく水蒸気雲の発生だった。



 雲が晴れたとき、其処に居たのは四肢を歪に折られ全身から深緑の体液を流す満身創痍の竜の姿。

 そして直下、少年が振り上げたセーリィは今度こそ竜の体躯に突き刺さり

彼女から吹き出した赤い光の奔流によって夜空が見渡せる程の穴が開く。

 もはや竜に力が残っていよう筈も無い。重力に捕らわれた亡骸はそのまま空と同じように暗い海へと堕ちていく。

気付けば周囲からは幻獣の気配が完全に消え失せていた。



 勝利の余韻に浸るまもなく、セーリィの忠告に従って少年は逃げる様にトレーインバッゼの郊外へと降りていく。

夜明けにはまだ遠いが、人が初めて幻獣に大勝した夜が終わろうとしていた。





1stRide is over. Please wait next Ride.