『ヒノキスギノキ時折ソノキ』その2

三月突入前に花粉症の兆候が現れたかと思いきや、雨が降ったり気温が乱高下したりで思ったより花粉症は酷くなかった。
「……とはいえ、こう気温に乱高下されたら花粉症の以前に純粋に体調を崩しそうな僕が居るんだ」
「んじゃーお前、気温が乱高下しない代わりに花粉症になる方が良いか?」
「いや、僕は花粉症にもならず気温が穏やかなのが一番」
「わがままな奴だな」
イチヨシの容赦ないツッコミに僕は力なくうなだれた。でもその横ではヒノカが僕の意見に同意してくれている。
「一度花粉症が始まるととにかく大変だからな。私も同意見だ」
「二人とも我が侭だなぁー」
まだ言うか。
これは我が侭なんかじゃないんだ。
叶うことのない、それ故にはかなく美しい刹那の夢なんだっ。
「そんな事言うけど、イチヨシも花粉症になっちゃえば僕たちの気持ちがよく分かるさ」
「そうは言っても、そもそも花粉症ってどうやってなるんだよ」
「花粉症の原因は諸説乱立してていまだにはっきりしてないよ。
 私が軽く調べた限りだと体内の免疫細胞のバランス次第だとか純粋な遺伝要因と言う説も有れば、
 花粉症が比較的近代でのみ問題になっている事から自動車の排ガスや、
 果てには現代人が寄生虫に感染しなくなったから、なんて奇妙な説も見たね」
「良いこと思いついた。お前、腹の中に」
寄生虫を飼う気は全くないよ?」
「ぇー」
まったく。イチヨシはほんとに油断ならない。花粉症になっちゃえこの野郎。