『ヒノキスギノキ時々ヤルキ』

冬とは絶望である。
その寒さは人々が講じるあらゆる手をすり抜け、万人を区別無く蹂躙し犯しつくして屈服させていく。
そうして服従させられた人々に為す術はなく、ただ背中を丸めて何処までも寂しく耐えるだけなのだ。
しかし世に不変無く、冬もまたしかり。
耐えに耐えて耐え抜いて、耐える事に慣れきった人々を待ちかまえたかの如く、
その福音は微かに、しかし確実に人々に語りかけて己の実存を呼びかけていく。


しかしその福音こそが罠である。


福音は喜びであるかも知れない。しかし福音は拷問を引き連れて訪れるのだ。
人々が風に福音を見いだした時、悪魔もまた其処に慄然と存在している。
風に乗ってやってくる、と言うと何処ぞなくファンシーでメルヒェンな響きだが
実際のところそんな可愛らしく受け取るにその自然現象はあまりにも凶悪で無慈悲だ。


「具体的に言うと花粉症で死にかけている訳なのだけどさ」
「そうか。介錯は必要か?」


そして友人という者もまた花粉と同じくらい無慈悲だ。